39.作動せず#11

「コムが発信機?……言ってくれればいいのに。ソディックさんらしいや」
 呟いたウィルに、シンは眉を寄せ「ここはずいぶんやかましいな……なんの生き物だ?」と頭を振り、よく平気でいるなと尋ねた。
「すぐそこから、水場になってるんだ。変な生き物がいた。たぶんそれだと思う。丸一日聞き続けて、俺はもう馴れたよ」
「ふむ。で――何があった? 君が怪我をしたようには見えないが」
 シンはシーサを振り返った。眩しい光のやりとりと二人の声にも起きず、シーサはこっくりこっくり首を揺らしている。
 どう言ったものか、ウィルはためらった。駆けつけてくれたのは嬉しいけれど、今日のことを打ち明けるのは――明日になれば元どおりになるかもしれないんだ。なにごともなかったように、シーサに乗ってまた走れるかもしれない。
 と、シンが握ったコムから通信音が響いた。応答したシンの声を遮り響いてきたのは、パドの声だ。どうやら彼もこっちに向かっているらしい、近くまで来たから誘導してくれとがなっている。
「今、どのあたりだ――わかった、光をたどって来い」
 やりとりを終えようとするシンに、ウィルは慌てて言った。
「パドまで来なくていい。そんな大袈裟にしなくても」
「そういう問題ではなかろう。彼の竜でなければ君を運べない。歩いて帰る気か?」
「えーと、そういうわけじゃなくて……」
 コムからパドがやかましく催促するので、シンは軽く舌打ちし自分のライトを取り上げた。「すぐそこまで来てしまっている。呼ぶぞ」と言い置きライトを点け、方位磁石を見ながら、ある方角へ向けて小刻みに揺らす。コムから「お、見えた見えた!」とパドがはしゃぐ声が漏れてきた。
 ほどなく、ロックダムに乗ったパドが合流した。開口一番、「おわ、なんだこのやっかましい音は?」と叫んでロックから飛び降りると、ウィルに向かい「いよー、どうした? 振り落とされてケツの骨でも折ったか? 災難だったな」と言い放ち豪快に笑った。
 そんなわけあるか、と言い返そうとすると、シンがいつもの冷静さで答えた。
「彼は異常無い。竜のほうに何かあったようだな」
 ……今は、くそ真面目に状況を分析するシンのほうが憎たらしい。パドが言ったとおりとうなずいておけば良かった。
「なに、竜のほうだってぇ? 小僧――まさか、またやったのか。この仔で懲りなかったのか、てめえは?」
「違う!」
 パドの疑いの目付きに、ウィルは叫び返した。「そんなことじゃない! 全然違う!」