39.作動せず#12

「どう違うんだ、ああ?」
 詰め寄るパドの後ろで、シンが腕組みしている。ウィルは観念した。誤魔化せそうにない。
 正直に打ち明けた。昼間、考えごとをしていたらシーサから落ちたこと、それいらいシーサが自分と距離を置くこと。どうしてそうなってしまったか、まるでわからないこと。
 話し終わると、シンが口を開いた。
「見てみないことには、なんとも言えんな。見せてくれ」
 あごをしゃくった方を見れば、いつの間にかシーサは起きて首をしゃんともたげている。
「……わかった」
 話した以上、ちゃんと見てもらうほうがいいと思った。彼らなら他で言いふらしたりはしない。こうなった理由も、わかるかもしれない。
 シーサにゆっくり近づく。ほんの数歩の距離だ。と、シーサはピョンと飛び上がるようにして立ち上がり、頭をこちらに向けたまま後ろににじり下がった。――やっぱり、か。
 シンとパドが顔を見合わせる。不安いっぱいで二人の目付きを探るウィルに、パドが言った。
「まあなんだ、気にするな、小僧」
「気にするなって……」
「そういう日もある。一日で終わることもあるし、長びくこともある。だがまあ、あまり気にするな。たいていの竜使いが経験することだ」
「たいていの? 本当に!? あんた達も――」
 ウィルの叫び声に反応し、三頭の竜が吼えた。シンの純血は激しく足踏みし、ロックは背翼をバタつかせる。シンに「静かにしろ」と睨みつけられ、ウィルはしゅんと口を閉じた。ロックの腹を撫でなだめながら、パドが答えた。
「おう、俺にもあったぞ、そういう日。話してやらあ。――ともかく、どこかに座ろうや。俺は腹が減った」
 三人はウィルが座っていた大木の根元にめいめい腰を降ろした。ああ腹がすいたすいたとわめくパドが、ロックの背から道具を落ろし、一人用にしては大きすぎる鍋で手早く食用プランクトンを煮立て、一方で湯を沸かしだした。やがて用意が整うと、ウィルにどうだと勧めてきた。
「俺も? ……シンの分は?」
「シンはもう喰ったはずだ。茶でも飲んどけ。ほれ」
 突き出されたカップを、シンは礼も言わずに受け取る。「これがお前の分」とこっちに差し出された皿には、三人前はゆうにある量が無造作に盛られている。こんなに?と呟いたウィルに、パドはぐいぐい皿を押し付けた。
「丸一日喰ってなかったんだろ。いいから喰え」
「……なんでそんなこと、わかるんだ。シンは要らないってことも」
「はっはぁ、不思議か? 知りたいか?」
 なんでこんなに得意げなんだ、この男は。けど、悔しいけれど、知りたい。ウィルはうんとうなずいた。
「俺を誰だと思ってるんだ。他人の腹がすいてないかどうか顔色をうかがい続けて何十年も生きてきた男だぞ。腹をすかした奴は俺を目の敵にすっからな。生き抜く力ってやつだぁな。まー、そんな話はいいじゃねえか、喰え喰え」