40.選ばれし民#4

「伝説の森を探し、私達を生き延びさせようと、か」
 ファリウスが呟く。ガランは笑って言う。
「あなたがたの、ではない。彼らの、生き残る道を」
「どういうことです」
「森の場所など、彼らは最初から知っていた。一億の人間を確実に誘導する手もあった。しかし彼らの望みは、科学の手助けを受けて生き永らえる人間ではない。どれほど過酷な環境であっても、真に生き残ることができる優秀な力、いやもうはっきりと告げよう、充分に淘汰され昇華された抗体の集合体が欲しかったのだ。森を見つけるまでの犠牲もまた、彼らの計算に入っていたのだ。すべてに打ち勝ち存続した共同体、それこそが、彼らの希望の結晶、彼らの退化した血に太古の力を復活させる鍵なのです」
 ファリウスの唇が震えている。
「ガラン、あなたの話は真実なのか、現実なのか」
 ガランが微笑む。
「その違いは、なんですか」
「首都の人間は、私達を人間としてではなく、ただの血の器としか見ていない。それが真実だと言われて平気でいられるものか。見てください、体の震えが止まらないんだ。それでも、私達に関わりのないことなら、私が震えていれば済む話だ。みなに伝えるべくもない。しかしもし現実なら――」
「現実だ」
 ガランの声は沈んでいる。しかし明瞭だ。
「はるか遠い首都で彼らが歯噛みしているだけならば、このような真実は伏せておけばよいが、彼らはまもなく現実として我らの前に現れる。それだけではない。我らの築いてきたものすべてと、我らの体液のすべてを奪い尽くすだろう」
「私達にすべての準備をさせておき、根こそぎ取って変わろうというのか」
「そう」
「そんな話があってたまるか。そんな――信じられません」
「考えてみれば、わかることだ。本来、我らは森にたどり着いたとしても、メルトダウンから身を守る術をもたないはずだった。ルロウにはシールド・ポールを作成する技術どころか、それが必要だという認識さえ無かったではありませんか? 生き延びるためには絶対に必要なはずの虚粒子工学が、なぜ共同体に伝承されていないのか。答えはこうです。彼らが我々に代わって、仕上げにやる予定だからです。私もなかば諦めていた。しかし奇跡はおきるものだな。ソディックが私の期待にこたえ、独学でポールを完成させたとき、私は決断した。この森は彼らのものではない。我らのものだ」
「しかし、どうやってこの位置を」
 呟いたファリウスは、ぴしりと額に手を当てた。
「そうか、森の位置は知っているのだったな」
「発信機も、あるしな」
「発信機?」
「『時計』だよ。あれは、こちらの位置を知らせる発信機にもなっている」
「では、あなたが『時計』を失したというのは、まさか故意に?」
「そう、捨てたのです。リーダーの地位を継いですぐに。慎重にことを運んだつもりだったが、ハヴェオに見つかってしまった」