この指とまれ!#2
僕は、作文用紙に「あ」の字を書いた。
そうしたら。
「あ」の字がぶるんと震えた。
くるんと一回転。となりのマス目へ。
だめだよ、マスからはみ出ちゃいけない。ちゃんと中に収まってなきゃ。
くるんと一回転。となりのマス目へ。
だめだよ、マスからはみ出ちゃいけない。ちゃんと中に収まってなきゃ。
そうしたら。
「あ」の字がぶるぶる震えた。
くるんくるんと二十回転。作文用紙から飛び出した。
だめだよ、紙から出ちゃいけない。ちゃんと他の字と一緒にいなきゃ。
くるんくるんと二十回転。作文用紙から飛び出した。
だめだよ、紙から出ちゃいけない。ちゃんと他の字と一緒にいなきゃ。
そうしたら。
「あ」の字がふるふる震えた。
机から僕の膝の上に跳ね降り、僕の膝の上から床の上に跳ね降りた。
だめだよ、汚れてる下になんか降りちゃいけない。ちゃんと清い所にいなきゃ。
机から僕の膝の上に跳ね降り、僕の膝の上から床の上に跳ね降りた。
だめだよ、汚れてる下になんか降りちゃいけない。ちゃんと清い所にいなきゃ。
そうしたら。
「あ」の字がぶるんぶるんと震えた。
ころころ転がって、たくさんの脚をかいくぐって、どこかへ行ってしまった。
だめだよ、僕から離れちゃいけない。ちゃんと僕のそばに、ちゃんといて!
ころころ転がって、たくさんの脚をかいくぐって、どこかへ行ってしまった。
だめだよ、僕から離れちゃいけない。ちゃんと僕のそばに、ちゃんといて!
「あ」の字がいなくなって、僕は途方にくれた。
「あ」の字が無かったら、僕の作文は完成しないんだ。
「あ」の字が無かったら、僕の作文は完成しないんだ。
そうしたら。
先生が僕のとなりに立って、どうしたんだいと訊いた。
「あ」の字がいなくなってしまったんですと、僕は答えた。
「あ」の字がいなくなってしまったんですと、僕は答えた。
そうしたら。
先生はポケットから「あ」の字の束を取り出した。
先生は次々と、からっぽの「 」の中に、「あ」の字を置いていった。
先生は次々と、からっぽの「 」の中に、「あ」の字を置いていった。
僕の作文が完成した。
作文の先生って、すごいや。