芋堀り言外ノ荷

「なんやの、こないだの夜の反省会てか。もたもたもたもたうざうざうざうざ、ほんまパレスチナは遠いのー。ますます遠ざかっとるんちゃうか」
「日本からパレスチナに行くのって西回りと東回りどっちが近いんだっけ」
「あんたいま、アメリカ大陸忘れて言うたやろ」
「・・・で、反省会なんだけど。も一回読んでみてわかったんだが。私はべつに反省してないんだよね。我ながら見苦しいと感じて恥ずかしいだけで」
「言うてたハタから『反・反』穴にずぼーんと落ちてたもんな。しかもなんやあれ、自尊心バトルならぬ誰が一番良心的かバトルけ。見苦しいでは済まんなー」
「今ごろ言わんと止めといたれや、そのための『脱』やろがい! いや、私が信教モードで核を解放したらクチダケでも止められないのか」
「無理。もいっこ言お。誰も止められへん、ていうか、モノ言えんよなるで、あんたがそれしてるとき。あんたがほんまに間違うてるときでも、だーれもなーんも言われへんで。そういう書きかたやん。せやから核なんじゃい黙れーいうならうちは黙るけど。そこの制御はあんたにしかでけへん」
「了解」
「まだ進むんか」
「進むよ。それはそうと、あれ書いて、わかったことがあるんだよ!」
「嬉しそやなー。なんやの」
「あのあたりの文章、読めば読むほど『差別』て言葉が浮き上がって違和感が強くなるんだよ。私のなかでは。なにか無理やりあの字を充ててしまった感がする。もともと私は『差別』という言葉の使用範囲はもっと・・・『集』なら社会システムに組み込まれてしまっている差別、『個』ならそのシステムを自明のものとして反復伝承している個人の差別意識、くらいのレベルに限定していたはずなんだけど。『Home away Home』の#1からそのスタンスだった。だから信教者に対する、なんというかな・・・ナイジェルさんが言ってた『再帰的に強化されるネガティブな他者認識』だっけ、そういうものは、私は『無理解』『偏見』と書いていた。『差別』とは書かなかったし、差別という言葉を充てるには要件が充足していない、程度も軽度に過ぎると判断していた。『無理解』と『偏見』と『差別』の間に線を引いて、意識的に立て別けていたはずなんだよね。その、私のなかに確かにあったはずの境界線が、消えてる。なんでだろう、いつからだ?」
「うち、なんでかわかった。言うても縊り殺さんといてな」
「・・・」
「それ『反・反』作用やんか。あんたの核をどう書いたて外のヤツらには通じひんわー思て、おもくそ手ぇ抜いたんじゃい。自分としてはそこまではいかんと感じるレベルのことやったのに、『差別』て記号で格上げしてさもさもタイヘンなことのように書きよったな」
「・・・」
「あ、もしかしてこれがあれやろか、『政治的な文章』てやつやろか。ひゃはは! 記号に乗っ取られよった。自分がほんまのところどう感じてるかより外にどう聞こえるか外をどう動かすかのほうが大事なんけ。二度と『表現』なんちゃ口に出さんとけ、あほんだら」
「・・・今日はもう寝る」
パレスチナ!」
「わかってるわい! なんやの何言えばいいんやし、知らんわ、教えろ!」
「『わかったことがあるんだよ』のわかったこと、うちまだ知らん。なんや」
「あ、そうだった。ひとつは。シオニズムシオニスト批判になにかしら私が抵抗するとしても、その文脈で『差別』という言葉は今後は使わない。適切でないし、第一、使うべきでない。と判った。イスラエルパレスチナ人に何を為しているかという問題と、イスラエル人がパレスチナ人でない第三者からどう認識され評されるかと問題と。この二つに同じ記号を充ててはいけない。絶対に。同じ記号を充てると、程度の差はあったとしても同質の問題だということになってしまう。相殺できるものだという意識が働きだす。それはまったく不適当。正義に適わない。『政治的』にもそうだろうが、私自身がそう思う」
「完全同意」
「あんたがツッコミひとつ掛けないってことは・・・この件、私の精神の全域で支持されてるってことか。珍しい」
「嬉しな。もひとつは?」
「それでも私が書いたことは、問題ではあるんだよ。間違いなく。『差別』ではないけれども・・・というより、この問題を現す記号はまだないんじゃないか、という気がしてきた。少なくとも、私が知っている言葉のなかに、この問題の真ん中を射抜いているものがない。でも、この問題を扱うことを諦めたとき、信教が根にある対立をなんとかどうにかするための通路がひとつ、完全に閉じる、ような、感がする」
「記号が無いもん扱うてか。難儀やのー。シオニズム批判でシオニストシオニストいうてる人らかて悪意はないんやであれ。記号が無いと対抗でけへんだけや。それっくらい、記号が無いゆうんはキツいで。・・・そんでも、まあええか」
「書くなら、記号のない海でも、自分の感覚たよりに進むほうが私はいい。記号に乗っ取られるよりは。ペースはもうちょっと上げたいな」
「次、どこ行く? 話の色合い、ざくっと変えよや。気分が膿み始めとる」
「ざくっとね。では『システム』へ。飛ぼう。よ!」