芋掘り言外ノ碌

「なんかさいきん頭が馬鹿になった。なに考えてもバラバラ。まとまるかと思って捕まえに行くとボロボロ砕けるし。なんでやろ」
「ほなこれやめたらええんちゃう」
「もうちょいがんばる。なんでやろ」
「仕事もスランプやしのー。やめたらええんちゃう」
「もうちょいふんばる。なんでやろ」
「うち、せむしのお話しのほうがええ。やめたらええんちゃう」
「もうちょい我慢しる。なんでやろ」
「しつこ!」
5か月前のクチダケの『もっかい言うて』も、しつこかったなー」
「あの話なんやったん。いまだにわからんわ」
「私も忘れた。ちょいまて、組み立てる。あの話でほんとに入りたかった要点は、ここな」

イスラエルが『他者』と認識しているパレスチナ人とは、自らの統治機構を持たない人達の群れ、あるいは、イスラエルに『反』する形でようやっと自分達の政治的アイデンティティを獲得した人達の群れ、ということにならないか

「だったら、なんやの」
「やめてやめて、それでアサッテに行って戻れなくなったんだから。そのツッコミ、言外にあるのは『否認』だよ。相手方の世界の要素いっさいを自分の世界認識から締め出したい、見たくないし見ない、聞きたくないし聞く価値はない、という思念だろ。もうちょっと違う訊きかたしてくれませんか」
もしそうだったとしたらどのような問題があるのでしょうか?
「うわ、クチダケに標準語にあわねー」
もしそうだったとしたらどのような問題があるのでしょうか?
「これって、すごく厄介な話じゃないかと思ってさ。私の頭では説明できないんで、他人様に乗っかっていいか。このへんに行き当たったわけ」

ありがちな思想の錯誤-finalventの日記
「孤独が自問する」とき、それを「ぼくたち」と呼びうる連帯が薄らと想定されるが、それもまた市民原理であり国家に行き着く。

フーコーの権力論というか-finalventの日記
近代が市民を確立し市民権さらに人権とういとき、暗黙に国家を介在させて権力の、支配・被支配の臨界を生み出してしまうし、まさにそれこそが徴兵の本質でもある。徴兵というのは、それによって市民の自由を作り出す(中略)その市民権・人権なりが、臨界において、表面的な侵略とか支配・被支配を、あたかも臨界の向こうとして異民族の関係、さらにその民族幻想から向こう側に国家の幻想を生み出し、それが鏡像的にしあげられる

「なんのこっちゃ。これが答えかい」
「これそのものが私の答えなわけじゃないけど、ここらへんにぶち当たるな、という・・・」
「おい、手抜きすなや。あんたの頭で処理しきれん賢い文章に乗っかってどないすんの。ここ誰のブログや。頭悪いあんたの書き場やろ。不相応じゃい」
「頭のいい人の文章はやっぱり違うねー。私が100人いて100年掛っても書けないぜ」
「あかんわこいつ、だわこいてるうえにあぐらかいとる」
「4月に仕入れて9月にここに出すくらいには反芻してるんですが。恥を忍んで言いますがねー、私だって自分で言語化できるもんならそうしたいし、finalvent氏の知見と問題意識を自分が共有できているとは思えないし、まったくの錯誤で全然別の話を自分の話題に引き当ててるだけなんじゃないかという恐れはあるし、恐れていてもその判別がつかないほど向こうと私の知と智の落差は大きいことも分かっている。分かってはいるが、でもまあ、ここにその記事二つへのルートを開けたのは良かったよ。この芋掘り始めた動機から言って、その二記事は無視できない。私には歯が立たない次元の話であっても」

 * * *

「入植期(1800年代末~)からイスラエル建国初期(1940-50年代)までを読むだけでわかるけど、あれを支えてるのって個人主義共同体主義の二律をまるっと呑み込んで国家にコミットする、むちゃくちゃタフな『市民』なの。あのメンタリティ、日本人からはほんとに遠いわ。ある意味、対極と言っていいのかも」
「そんだけ遠い人らのこと、読んだくらいでわかるんかや」
「わかるわけない。記述からこうかなと推測はするけど、なんつーか、手触り感みたいなのがまったく湧かない。未知の大地だ」
ユダヤ教徒の人らて個人主義っぽかったけ? 共同体主義っぽい、はわかるけどな」
「主義の混成でも使い分けでもなく、両岸を往ったり来たりしている動体に見える。で、シオニズムの大元の話しに戻すと、反ユダヤ主義ポグロムが吹き荒れていた欧州で彼らが希求したのって、自分という個人と家族という共同体の生の尊厳=『自由』が第一であって、パレスチナへの『帰還』てのは信教が人の情熱の向かう先を集約したくらいに過ぎないことだと思う。20世紀前半、ユダヤ教徒が差別と迫害から『自由』になりたいなら、権利の主体である市民として自らを生かす機構を得なければならなかった。ただ逃げ隠れて別所で寄りあって、国連なりなんなりに庇護されている存在ではダメなんだな」
「ダメなんけ。ヒトって面倒やな」
「クチダケはそういうの面倒そうだね。なんていうかな、権利の主体とみなされないことは、革命以降の欧州人のメンタリティでは『人間未満』ってことじゃないかと。人間として扱われていない、というだけじゃなく、人間として扱われていないことを自ら知らず抵抗しない人ってのは、『未だ人間ではない』ということね。『そのような私であることを私は認めない』という主体の誕生を言祝ぐということ、それこそが人権思想じゃないかと」
「あんた、もろそれやん」
「私はそうだし、どのような人も権利の主体であると思うけど、いっさいの人が『人間』として主体的に誕生すべきとは思ってないよ。ともかく、彼らは自らをそのように取り扱う国家を創設するしかなくて、創設して、それを維持するために市民であり続けている。『市民』という概念がなければイスラエルは生まれなかったし、イスラエルは『市民』の砦として要請されたからこそ構成員に『市民』であることを要請する。そういう国と国民なのかなと」
「だったら、なんやの。あーこれは避妊ちゃうで。ただの愛の手」
「御返還だよ。で、イスラエル人、とくに初期の欧州出身の移民一世とその継承者(サブラ)の精神にこの核が埋めこまれているとしたら、彼らにとってパレスチナ難民というのは『人間未満』なわけ。自分たちの来し方と引き比べるほどに」
「それ、このシリーズでダントツにサイテーの憶測やの。どっちに対してもやで」
「憶測かね。当たってれば、これが事実だが」
「仮に当たってたかて、せやったら何してもええっちゅうんか」
「何してもいいわけない。おおかたのイスラエル人だってそう思ってるんじゃないのか。だが・・・『彼らも人間である』『何してもいいわけない』と頭で考える理想より、本音の根っこにある『このような人間が人間である』『何をされるか(状況)は人間が主体的に選び取った結果である』という感覚のほうが、ふだんの行為を決めてるんじゃないのか。そいつらから生まれる『人間』ならざるものへの無関心や優越意識は、あからさまな悪意や嫌悪とはまた別の、人を人とも思わない暴力をやすやすとやってのけるんじゃないか。矛盾だけど、この優越意識に対抗できるのは高邁な人権思想じゃない。理想的な『市民』と無知蒙昧で役立たずな『非市民』をまったく等価な『人間』と捉える思想、主体的な『個人』と自我をも知らぬ『個人』をまったく等価な『人』であると捉える思想、自分や他人が死ぬまで誰かの世話になり主体性なく庇護される存在だとしてもやましさを感じないという精神体系、のほうが抵抗の拠点になり得る」
「『反』! PLOファタハインティファーダパレスチナの人らは『主体的に』きっちり抵抗しとるわい。ただ庇護される人らちゃうで」
「うん。イスラエル側もそこは段階的に認めているように読める。初期はPLOパレスチナ人の代表組織とは見ていなかったが路線を変えた、インティファーダ(蜂起・反乱)を『暴動』などと言い換えてはない。でもそれって、イスラエル側から言えば、『新たに立ち現われた主体』への創造的な応答を迫られてるってことなの。既存の枠組みの中には解決策が無いから」
「新たな主体てなんやな。その土地にもとっから居た人らやで」
「わかってるわい。んでも、片側の認識の窓枠からもの見うたらこうなるんじゃい。イスラエルにとってパレスチナ人は『居ない』か『問題にならない』存在だったんだから。んで、パレスチナ人とイスラエルとの和解は、イスラエル側に限って言えば、この『新たな主体』が国内で肯定的に審級される以外にありえないわけ」
「ありえろや」
「ありえたらいいが、実際にイスラエルはこの可能性を完全に切り捨ててはいないと感じるが、それって、自国の民間人標的にテロることが『主体的な抵抗』であるという相手を、自分達と対等な『市民』であるかどうか審級するってことなんだよ。彼らをそういう状況に追い込んだのは自分達だという十分な省察と、彼らを承認したとき国境か国政が激変する未来に覚悟がなければ、この審級は絶対にパスできない」
省察して覚悟すればええやん。と言いたいところやけど、無理やなそれ。そないなヤツがおおかた占めてる国があったらすごいやろなー。神の国やで」
「クチダケ、神の国に住みたいかい」
「その国が困ってたら奮発して募金してもええけど。うち、この国で死ぬ。相応や」
「死ぬときは一緒ですわ。でさー。このどうにもパスしそうにない審級に拘るのか、私がさっき挙げた『抵抗の拠点』の方を機能させるのか。当事者が審級をあきらめるべきとは私は絶対に言わない。だが、こんな国から他人が他人事に何か言うなら、私はこの『審級』がどうあるべきと審判するようなことも絶対に言えないし、煽るようなことはまして言いたくない、言ってはならない。と、思った」
「ちょい『脱』。言わない、言えない、言いたくない、言ってはならない。ほな、黙ってたらええやん。その結論、ちょーあほくさ」
「んあ。あー、あーー、ユニセフに募金しに行ってくるよ。明日」