芋掘り言外ノ失


「完走した。・・・しんどかった」
「あないに端正な文章つっかえつっかえでしか読めんようになっとったとはのー。歳は取りとない。で、感想でも書くんけ」
「いや、次への整理」




■1948年■
第一次中東戦争イスラエル側にとっては独立戦争パレスチナ人にとってはナクバ(「破局」「大災厄」「大惨事」などの意)の年。
独立戦争によってパレスチナ難民が生まれた史実は大かたのイスラエル人にとって認識の「穴」。史実を知らないということではなく、「否認」の穴。極右は例外。この点についてイスラエル人の口から明確に述べられた内省の言葉は、1000ページ中 1件のみ。
イスラエル国内に、この点を正面から論ずる左派がどれくらいいるのか要確認。
【資料】オルガ・アピール

建国までの、「無人の地を開墾するか購買する以外の入植はない、土地を巡って先住者と諍わない」という入植第1世代の信念がこの年は転倒した。
リクード政権以降の西岸入植政策がこれに近いのか要確認。

第一次中東戦争におけるイスラエルの交戦相手はアラブ諸国と英国の統治体であって「パレスチナ国民」ではなく、敵国民ですらない民間人の土地の奪取はまったくの不当。これ以外の評はない。イスラエル人の知性がこれを判別できない程度に劣っている、わけがない、ゆえに「穴」。
公正性あるいは人道上の観点から、ガザ・西岸域の占領政策を批判する言論はイスラエル内にも少なからず健全にあるが、この原点に対する否認が続くかぎり、パレスチナ情勢がやや好転することがあったとしてもパレスチナ問題は続く。
【資料】懸念される内容の記事
イスラエルのアラブ人用教科書から「ナクバ(大惨事=イスラエル建国)」の記述削除
アラブ人向け教科書で「ナクバ」使用を禁止、イスラエル

和平プロセスにオスロで合意したアラファト議長が、「パレスチナ全難民の無条件の帰還」を要請しオスロⅡは合意直前で蹴った、という記述あり。▼別人の著述で詳しく読めるならば確認したい。

分離壁■ 【資料】分離壁の写真
オスロ合意(1993年)から分離壁建設への動きを理解。イスラエルにとってオスロ合意の主眼は、アラブ諸国との停戦を恒久化すること(背景に冷戦終結後の潮流、石油を巡る中東情勢)。パレスチナ人との和解が目的ではない。その後パレスチナ問題を「国内問題」化しないためパレスチナ自治政府を承認しつつパレスチナ問題を「外交問題」化しないようにパレスチナ自治区を占領。分離しつつ統治するための壁。
分離壁建設でリーダーシップを執ったのはラビン首相。ラビン首相暗殺後の右派政権が構想したわけではない。イスラエル国内でのパレスチナ自爆テロの頻発により、人の往来を封鎖するため強化されたが、壁じたいは領土の分断・人の往来の制限を意図して自爆テロ発生前から着工している。(イスラエル民間人を標的にしたテロじたいは自爆テロ以前からあり)
グリーンラインよりパレスチナ側へ浸食。(パレスチナ領土内のイスラエル人居住区を保護するという名目で)パレスチナ人の居住区を分断している。【資料】イスラエルの分離壁
分離壁で互いの経済交流を遮断しつつ、「パレスチナ領の経済発展が情勢の安定に不可欠」と述べ欧州米にパレスチナへの経済援助を要請したラビン首相の矛盾。否認の行き着く果て。

■2008年12月■
記述は2007年まで。2008年12月の大規模なイスラエル-ガザ侵攻の背景は著作からは読み取れない。同政権下(オルメルト)の流れだが。▼要確認。

ハマス
ハマスへの評価は保留。この著作からは評価を決せず。ハマスの軍事行為への評価ではなく、▼宗教原理主義なのであればその内実と強度、自身たる「人」(パレスチナ人)をどのように扱っているか、政権運営の様態、をパレスチナ側に立つ記述から確認したい。

イスラエル兵の暴力■
パレスチナ人に対するイスラエル兵の暴力について。いくつか記述があるがまったく物足りない。末端兵のモラルの問題に帰されかねない記述内容。イスラエル軍の【組織という主体】のありかたが見えてこない。
同じアラブ人であっても隣接諸国の戦争捕虜に対しては、パレスチナ人に対するような暴力が頻発する・看過されることはない、またはごく少ないと考える。兵士個人の人間的資質の問題、あるいは軍全体の統制不足といった問題とは思えない。イスラエルパレスチナという関係性の構造から起きる暴力であるはず。
パレスチナ側に立つ記述で詳細を要確認。
イスラエル兵個人、中間・上級職者の語りがあれば確認したい。
【資料】日々の雑感 148:『沈黙を破る』公開に寄せて(1)

■国内問題■
イスラエル国内に出身地・民族に依拠した差別感情と経済格差があるらしいことを確認。深刻さは私の予想以上。
【資料】イスラエル国内の所得格差広がる ガザからの撤退者、78%がいまだ就職見つからず (※2005年12月の記事)
▼できればより詳細なデータを確認したい。




「自分の関心の振り子がパレスチナ側に向かい始めていることは間違いないみたいだ。・・・やれやれ。やっとナイジェルさんに顔向けできるぜ」
「長かったのー。なんやかんやいうて、あんたがここに書いてることの大半、シオニストシオニスト言う人らと大差ないで」
「結果的には。でも私は、事実を上流に置いて、このようでなければおかしいという作為の意識を廃して流れを下っていったとき、自分の眼に何が映るか、いつか善悪正誤の審判眼を自分が得られるものなのかどうか、試していただけだよ。彼らとは出発点が違うし、動き方もまったく違う。いまでも彼らとはまったく違う眼しか持ててないと思う。誰かとの同異はともかく、できれば良き眼を得たいとは、思っているけどね。パレスチナイスラエルの人達に対する気持ちとして」
「読んだ本、嘘だらけやったらどうすんねん」
「書いてないことは多いだろうけど、筆者自身の嘘は入り込んでないと感じるし、取材されている記録の事実性もある程度検証されていると思う。一応、紹介されている記録や発言が事実と違う可能性を射程に入れて読んでいるけど。人の発言も、発話の位置と内容の構造から、『発話者の価値観・立ち位置から見た事実』だけ拾うようにして、人の発言から事実はこうだという決め付けはしないようにしたし。まだまだリスクはあるが、まあ、大丈夫じゃないか」
「これからどないすんの。パレスチナの人らの方に気持ちが向きかかってるんなら、良かったやん。うちはもう寝てええか」
「もうひと飛び一緒に来て。言外の海に出た甲斐があったかなかったか、次に賭けよう」